徹底的に80年代のサウンドに拘ろう
──デジタルリリースされている曲も数曲含まれた作品ですが、曲順や展開はどう考えて1枚のアルバムにしたのでしょうか。
Sean:あんまりコンセプチュアルにはなってないんですけど、聴いたときに滑らかにジャンルが繋がっていくような感じになればいいかなと思いました。1、2曲目がユーロビート系のサウンドで、4、5曲目からバンド系になって、最後ちょっと変化球で7曲目の"うまいことできてる -That's How it Works-"が入っていて、最後はバンドで終わるっていう。飽きないでかつ滑らかみたいなそんな感じを意識して みました。
──最初の方はユーロビートっぽさを意識しているんですね。確かにかなり80年代テイストがあります。楽曲制作はどんな感じで進めていったのでしょうか。
Sean:例えば80‘っぽさのある1曲目の"回せ回せよ哲学を –Imagine–"と2曲目の"強くてニューゲーム -The New Game–"で言うと、あの時代にすごく象徴的だったサウンドってやっぱりドラムマシンなので、最初にキックの音から選びはじめて発展させていくような感じだったと思います。ドラムの次はベースで、1曲目はピック弾きのベースをサンプリングしたような音にして、2曲目ではMOOG(アナログシンセサイザー)系のベースにしようかなと。本当にレコーディングする順番でサウンドを考えて行くんです。ドラム、ベース、そこから上っていう感じで。 ただ"回せ回せよ哲学を –Imagine–"はアルバムのなかでいちばん特殊な作り方をしていて。ベーシックなコード進行や曲の大枠は全部キム君が弾いてくれて、それを僕がつぎはぎしてメロディーに乗せてっていうやり方で。これまでにあんまりないような作り方だったので新鮮でしたね。
──この曲を1曲目にしたのはどうしてですか?
Sean:タイアップ曲だからです(笑)。
──めちゃくちゃわかりやすい(笑)。自身最大のタイアップ(TBSドラマストリーム「埼玉のホスト」主題歌に起用)ですが、実際どうでしたか。
Sean:なんかすごく身構えちゃってたんですけど、意外と楽しんでやれました。ビビってたというか、シンプルに緊張しましたね。書き下ろしだったので、曲ができなかったら終わりじゃないですか? 人生はじめて追い詰められたというか、「俺がやらなきゃどうにもならない」みたいな(笑)。
──その結果、すごくポップで良い曲になりましたよね。相当カタルシスがあったんじゃないですか。
Sean:ありましたね。泣いてました、もう(笑)。
──"強くてニューゲーム -The New Game"は、どんなことを考えて書いた曲ですか。
Sean:これは僕のなかで、地元の歌なんです。今年の頭から地元に帰ってそこで活動してるんですけど、古い友だちと会う機会が増えてきて、そういうやつらの話を聞いてると、悪く言えば腐りかけてる、よく言えば大人びてるんです。みんな本当はやりたかったことがあって、あきらめたわけではないんでしょうけど、いまの生活に妥協っていうか、満足はもちろんしてると思うんですけど、そういう大人になってしまったみんなにもう1回、「なにかやりたいことがあるならやろうよ」っていう曲ですね。僕もちょっと似たような節があったので、自分とも重ねつつ。初期衝動的なものはもうないけど、「もう1回ちょっと頑張ってみませんか」っていう曲です。
──サウンド面はいかがですか?
Sean:まず全部打ち込みで作ったんですけど、僕がよく行くレコスタ兼ライヴハウスみたいなところに遊びに行ったときに、「いま80’サウンドっぽい曲を作ってます」っていう話をしたら、「じゃあ、これ持ってけ」って、80年代当時結構よく使われてた「YAMAHA SY99」っていうでっかいシンセをくれたんですよ。それが本当に80’の音がするんです。ドラムマシンも入っていてチープな音がしてすごく気に入ったので、打ち込みで作った音を全部、実機を通して録音し直して、全部そいつの音で作った曲です。だからこの曲、「YAMAHA SY99」の音しか入ってないんですよ。

──なるほど、まさに80’の音になっているのは伝わります。 "きれいごと -Fine-Sounding Talk-"は、〈その夢はきっと叶わない 頑張るほど叶わない〉というフレーズが出てくるアルバムを象徴する曲ですが、DÉ DÉ MOUSEさんがアレンジで参加していますね。
Sean:DÉ DÉ MOUSEさんとは元々面識はなかったんですけど、DÉ DÉさんが女性ヴォーカルの曲をそれこそユーロビートっぽい感じでやっていたりするのを聴いて、「すごく勇気のある人なんだな」って思ったんです。その頃は僕も打ち込みがそんなにうまくできなかったし、80’とかユーロビート系のサウンドもあまり馴染みがなかったんで、その道のプロにお手伝いしてもらおうかなと思ってお願いしました。僕が作ったのは1番まで、2番3番から終わりまではDÉ DÉさんが作ってくれて、あとはそこに僕が新しいメロディを乗せてっていう感じで、「こういうことをやりたいんです」って伝えてからは打ち合わせもあんまりせずに、スムーズに完成できました。やっぱりDÉ DÉさんもおもしろい方だと思うので、予定調和で終わらずに、僕が「こうなったらいいな」って思ったところにプラスアルファでぶつけてきてくれたので、すごく良かったです。
──曲ごとにサウンドプロダクションのおもしろさがありますね。"メーデー!! -Mayday!!"はギターの乾いたカッティングからはじまって、ホーンも入った華やかなサウンドが際立ってます。この曲のテーマってどんなことですか。
Sean:これはまさに、僕ら世代が抱えてるこの鬱々とした感じを叫んだ曲ですね。同年代とかちょっと下の世代を見ていると、「頑張るのがカッコ悪い」みたいな風潮があるんじゃないかと僕は思っていて。「マジになれないけど、なにか満たされないこの感じ」みたいな、いまの僕ら世代のことを歌にしてみました。
──結構こういうインタビューで20代の人と話すと、いまおっしゃったみたいに「満たされない」みたいな話ってよく聞くんですけど、それってなんでですか?
Sean:なんなんでしょうね? 「エンタメ」っていう側面からの僕の考察としては、若い子ってあんまり我慢できなくなってきてるのかなと思うんですよ。例えば長い本とか映画も多分なくなっていくと思うぐらい、若い世代のほとんどは我慢する娯楽に対してあんまり興味がなくなっていると思っていて。TikTokが出てきて、どんどん早回しでいろんな情報が入ってくるのにみんなもう慣れきっちゃってるじゃないですか。だからすぐに楽しみ方がわかる娯楽、つまり我慢しなくてもいい娯楽ではないと、満足いかなくなっちゃってるというか。「耐えて楽しむ」ことができなくなってる気がするんですよ。
──映画館で座って2時間じっとして観てられないっていう?
Sean:そうです。そうなんだけど、やっぱり長い映画を観終わった後って、ちょっと心に残るものがあるじゃないですか? 短期的な快楽は短い時間のスクロールで満たせるけど、ああいう心に残る体験が少なくなっちゃってるんじゃないかな。でも、情報だけはものすごく入ってくるから、若い子ってみんな頭が良くてなんでも知ってるんですよ。そうなると悪く達観しちゃうんですよね。だからなにをやっても大体結末がわかっちゃうというかチャレンジしなくなるような感じがしてます……という僕の考察です。
──こういういまのエンタメについて若い世代が感じてることって興味深いですね。
Sean:でも僕もドラマ1.25倍で観てますから(笑)。でも普通に観るより、観終わった後にちょっと疲れるんですよ。半分スピリチュアルな話になっちゃうんですけど、僕は岡田斗司夫さんが好きで、あの人が「現代人が抱えているストレスは脳の回転数がすごく速いからだ」「意図的に脳の回転スピードを落とすと、もっと鋭い思考ができるようになる」っていうんですよ。だから本を読むとか、朝起きて文字を書いてみるとかを最近実践してます。敢えて怠い娯楽をやってみるということを(笑)。
──いまの考察はなにか目からウロコぐらいの感じを受けました(笑)。
Sean:それはよかったです(笑)。
──「現代の若者は今のエンタメに満たされない節がある」という考え方のなかで、自身の制作活動ではなぜ“80年代の音楽”にアプローチされたのでしょうか?
Sean:80年代の曲を聴いてるとジャンルを問わずワクワクするからです。これは自分の妄想とステレオタイプ的な”80s”っていうイメージによる部分がデカいんですけど、そういうバイブスをいまやったらみんな気になってくれるんじゃないかなって。80sリバイバルって永遠にあるようなないような雰囲気なので、中途半端に新しいサウンドと混ぜて…って感じではなく、自分は徹底的にその時代のサウンドに拘ろうと思ったんです。
