「音楽は必要ないです」って言ったまんま、胸張って音楽をやる
──岩渕さんがさっき仰っていた「バンドをやって生きていて思うこと」ということでいうと、最近、おふたりはどんなことを思いますか?
四方:それでいうと、『ハライチのターン』を毎週聞いているんですけど、ラジオ・クラウドでやっているアフター・トークで、学生時代の同級生に会った話をしてて。福祉のこととか、社会がどうなったらよりよくなるか、それにはこういうアイデアがあるんじゃないかみたいなことを同級生が話してて、そのなかに自分はまったく入れなかったっていう話をするんです。でも、お笑いラジオなんで、その後にはくだらないコーナーとかもやるじゃないですか。そこで、「なにやってんねん、俺ら」みたいになっていくんですよね。ハライチのふたりが、自分らのやっていることの馬鹿馬鹿しさに割としっかり面食らってる回があって。それって自分も普段感じていることだったんで、いろいろ思うことがありました。エンタメ業界にいる虚しさというか。娯楽って、結局は最低ラインの生活が保てた上でのものなので。いま、バンドをやっていると「置いてかれている」感じって確かにある。それが割と直近で感じたことですね。
岩渕:俺も近いというか。自分がやっていることが「不要不急」みたいな理由で削られることなんだって実感したのがめちゃくちゃデカくて。最近はいろいろ戻ってきているとはいえ、余白がめちゃくちゃ削られた上でのライヴしか戻ってきてない感じもするし。ソーシャルディスタンスで人と人との間は空いてるけど、遊びのゆとりみたいな余白はない、なみたいな感じがすごくする。東京でコンパクトにライヴがやれていたり、フェスが最小スロットで開催できていたり、そういうのができていれば確かになにかは回り続けるんですけど、それもやっぱり、「遊び」とか「余白」が削られた状態でしかないって気持ちはやっぱりあるんですよね。

──なるほど。
岩渕:でも、やっぱりおもしろいことって絶対に「遊び」や「余白」から生まれると俺は思ってて。お客さんが少ない小さいライヴハウスからでもおっきい熱狂は絶対生まれるはずだし、俺はそういうもの心動かされてきたし、力をもらってきたし。なので、そういうものが削られてることが悲しくて、やっぱり悔しいですね。無駄を愛せない世の中が悔しい。そこに抗うために必要なのって、「音楽は政治的です」って主張することでも、「音楽が必要です」って拳を上げて言うことでもなくて、「音楽は必要ないです」って言ったまんま、胸張って音楽やることだと思うんです。それがちゃんとお金になったり、誰かの気持ちが動いて、なにかが回ってく循環がもう1回戻ってきたらいいのになっていう気持ちが、いますごくあります。だから、〈Treasure Tour〉でいろんな地方に行けるのは、すごく嬉しいんですよね。ほんと、最近は東京大阪ばかりしか行けていなかったから、福岡や新潟や岡山にちゃんとライヴしに行けるのは、すごく嬉しい。
──四方さん的には、『ハライチのターン』に共感したところから、その後、ご自身の気持ちはどういうふうに動いていったんですか? なにか着地点が見出せたりはしたんですか?
四方:俺は「気持ちが着地したことがない」ってくらいずっと浮いてるので。たぶん、曲作ってる人みんなそうじゃないですか?
岩渕:そう思う。
四方:ね。なんか、「よし、これ!」ってなった瞬間に、たぶん、その人の作るものはおもんない気がするというか。
岩渕:めっちゃわかる。
四方:揺れ動いたり、矛盾してる部分が人間にあるからこそ、俺はそういうものを表現できる音楽とか映画みたいな創作物が好きなんだろうなと思うし。完全に答えが決まってて、そこに一直線に進むやつは、エンタメとしてはおもしろいかもしれないですけど、俺自身としてはあまりおもしろいと思ったことないので。気持ち的には、地に足ついたことないです。
岩渕:わかるわかる。ずっと答えを出したいと思ってるけど、答えが出てしまったら、「じゃあ、それでええやん」ってなるもんな。
四方:出たらやめてまう気がする(笑)。

──わかりました(笑)。最後に、〈Treasure Tour〉に対しての意気込みをそれぞれお願いします。
四方:ヤジコとして、こんなに地方を回ること自体がはじめてに近いので、コロナ以前とか関係なく、いろんなところに行って、いろんなお客さんと同じ空間を共有できることがシンプルに楽しみですね。それがいちばん大きいかな。
──パノパナにはどんなことを期待しますか?
四方:期待というか、安心します(笑)。もちろん負けないようにしようとは思っていますけどね。でも、テレンにしろフレデリックにしろオーラルにしろ、MASHの先輩たちには、普段の振る舞いやステージ上での振る舞いみたいな、細かいところで見せてもらうものが大きかったと思うので。
──岩渕さんはどうですか?
岩渕:パノパナはここ2年ですごくプリミティブなものに向き合うようになったので、そのライヴを、行けていなかったいろんな場所に届けに行きたいです。あとはもう、めっちゃ嬉しいですよね、ヤジコとユレニワと一緒にライヴできることが。こういうスプリットツアーって、特に意識していなくても自ずと熱が上がっていく感じがあるんですよ。俺はそれがめっちゃ好きで。言葉にはしないけどそこにある熱が、段々と高まっていくツアーになったらいいなとは思います。その場その場でいいライヴをするのはもちろん、その裏で育まれていくなにかも大事にしたいなと思いますね。
四方:同じメンバーで同じ場所を回っていくとなると、楽しそうですよね。ワクワクする。MASHのイベントって、毎回いつものライヴとは違う心意気になりません? それぞれ、独自の気合いの入れ方をしてくるじゃないですか。
岩渕:たしかに、MASHのイベントってめちゃくちゃ毎回気合い入るなぁ。あと、ユレニワ、パノパナ、ヤジコって、マジで音楽性は違うなと思っててさ。そのメンツで、これだけの本数回るって普通ないことだから。MASHって、ロゴに「NEW ROCK NEW STANDARD」って書いてあって、「すごいことを銘打ってるな」って看板見るたびに思うけど、「いまの時代のロックバンド像」みたいなのを、各々の形で提示できる、そういうバンドだと思う、全部。
四方:強みも弱みも含めて、やっていくうちに「自分達らしさ」みたいなものが見えてくるのかなっていう気もしますね。
岩渕:そうやな。各々スタイル違うからこそ、強みもわかりそうだし、「ここは足りん」みたいなこともわかりそうだし。そうやって提示し合えるツアーになったらいいな。

編集:梶野有希
YAJICO GIRLの過去作はこちらから
〈MASH A&R presents「Treasure Tour」〉
2022年10月14日(金)愛知・名古屋UPSET
ACT:Panorama Panama Town / YAJICO GIRL / ユレニワ / Ezoshika Gourmet Club
2022年10月15日(土)新潟・club RIVERST
ACT:Panorama Panama Town / YAJICO GIRL / ユレニワ / マチカドラマ
2022年10月29日(土)大阪・LIVE SQUARE 2nd LINE
ACT:Panorama Panama Town / YAJICO GIRL / ユレニワ / Mercy Woodpecker / Bye-Bye-Handの方程式
2022年10月30日(日)岡山・CRAZYMAMA 2nd Room
ACT:Panorama Panama Town / YAJICO GIRL / ユレニワ / Mercy Woodpecker / the paddles
2022年11月01日(火)福岡・LIVE HOUSE OP’s
ACT:Panorama Panama Town / YAJICO GIRL / ユレニワ / Mercy Woodpecker
2022年11月11日(金)東京・渋谷 Spotify O-Crest
ACT:Panorama Panama Town / YAJICO GIRL / ユレニワ / Mercy Woodpecker
PROFILE:YAJICO GRIL
5人編成で自身の活動スタンスを「Indoor Newtown Collective」と表現する。2016年「未確認フェスティバル」「MASH FIGHT」など様々なオーディションでグランプリを受賞。活動拠点を地元・大阪から東京に移し、音源制作・MusicVideoの撮影から編集・その他ほとんどのクリエイティブをセルフプロデュースし、活動の幅を勢力的に拡げている。
■公式HP:https://www.yajicogirl.com/
■公式Twitter:https://twitter.com/YAJICOGIRL
PROFILE:Panorama Panama Town
2013年、神戸大学軽音楽部にて結成。バンド名に特に意味はない。叙情的なギターに、まくし立てるようなボーカルを武器に奔走するオルタナティヴロックバンド。
■公式HP:https://www.panoramapanamatown.com/
■公式Twitter:https://twitter.com/pano_pana