価値観は変わっていくものだし、だからスタイルもどんどんアップデートしていく
──今回は最新作「CROW」のインタヴューなんですが、すでに「CROW」は過去のものになりつつあるというか、最近のライヴを観ているとその先へ行ってる感がすごい。
SHV : 実際、「CROW」の4曲を録ったのは去年の2月だから1年以上前で。実は“HUSK”(2021年8月リリース)と同じ日の録音なんですよ。なんとなく“HUSK”は毛色が違うと思ったから別枠で、配信シングルとしてリリースしたっていう。
ZIE : 録音的には「CROW」より去年の11月に出した「DIFFERENT SENSES」のほうが新しいんですよね。
SHV : しかも“HUSK”とかは録ったのが去年の2月だから、曲を作ったのはもっと前で。
ZIE : 初めてスタジオで合わせたのは、2020年のコロナ禍のときだから、ちょうど2年前ぐらいですね。池袋のスタジオで、okamotoさんがお腹壊して来られなくて、代わりにオオシマさんがドラム叩いて、ヤバかったですよね。
SHV : 正直、“HUSK”のリフを思いついたときはKLONNSとしてやるべきか迷ったんですけど、「やっちゃうか」と。
ZIE : 僕はいちファンとしてKLONNSを聴いてきて、“HUSK”でロックの本質に近づいたと思っていて。うちの母親が“HUSK”を聴いて「いいね」と言ったんですよ。母親は音楽とか別に好きじゃないんですけど、そういう人が「いいね」と言ったということは、音楽として純粋なものになってきてるのかなって。
──KLONNSのスタイルの変遷は、変化とか進化というよりは純化という感じがします。研ぎ澄まされている、あるいは削ぎ落とされているというか。
SHV : とにかくいいリフを、ハードコア・パンクとしていい曲を作ろうとしてるので、純化っていうのは合ってるかもしれない。あと、いっぱい曲を作るのは単純に自分が自分の曲に飽きちゃうからで。自分が音楽をやっていて一番楽しいのは、曲ができる瞬間なんですよ。もちろんライヴも楽しいけど、自分の作った曲がバンドという装置を介して具現化されることにもっとも意義を感じるというか。だからライヴでやってるけどまだ録ってない曲が10曲以上ある。
BH : 曲を作るのが異常に好きという意味で、SHVは異常者だからね。
──一時期、KLONNSのライヴを観るたびに知らない曲が増えていました。
SHV : 去年ぐらいから1、2カ月に1曲は作ってましたね。毎回ライヴに来てくれる人も多いから、楽しんでもらうためにセットリストも毎回変えてます。
BH : バンドによっては、例えば「昔の曲もやってほしかったな」みたいなケースもあるけど、KLONNSの曲は初見でもわかりやすいし、どんなセットでも満足感があるなと、いま言われて気付きました。もちろん好きな曲は人それぞれにあると思うんですけど。
SHV : 自分としては初見でも一発で覚えられる、超キャッチーな曲を作ってるつもりです。極端な話、すべての曲をシングルA面としてMVつけて出せるぐらい。
BH : 自分のレーベルから音源をリリースしたいと思うときって、楽曲に惚れるパターンとバンドに惚れるパターンがあるんだけど、KLONNSは後者なんですよ。楽曲よりもバンドを信頼できるというか、「この曲をどうしても出したい」じゃなくて、「KLONNSならどんな曲が来ても大丈夫でしょ」みたいな。
──先日の「Discipline」(2022年6月25日開催)でのKLONNSのセットは、音源化してない曲ばかりでしたよね。にもかかわらずコサカくんも言うように満足感があったし、それを裏付けるようにフロアもブチ上がってました。
ZIE : あれは来年リリース予定のアルバムの、仮の収録曲順でやってみたんですよ。テスト的に。
SHV : 実はフルアルバムを作っていて。「CROW」の時点ではまだ途上って感じなんですけど、いまやりたいのは1曲の中でどんどん精神状態が変化していくような曲で。その突発的でぐちゃぐちゃな感じがいまの社会の空気にも合致するんじゃないかとも思うんですよね。それってつまりモッシュパートじゃないですか。
──その「Discipline」でも1曲目にやった“HEATHEN”や、Golpe Mortalをフィーチャーした“HEAVEN”などはまさにそうですね。
SHV : それを夏にレコーディングするんですけど…来年、出ますかね?
BH : がんばりたいですね。LPは「CROW」と同じく海外のレーベルと〈BLACK HOLE〉の共同リリースを予定してるんですけど、別にKLONNSは〈BLACK HOLE〉のお抱えバンドじゃないので、もし盤を出したい人がいたらどんどん彼らに声かけてください。
一同 : (笑)。
SHV : なんだかんだ僕らも6年ぐらいやってるんで、1stアルバムといっても別にフレッシュな感じはしないじゃないですか。だから「いまの僕たちを詰め込みました」みたいなものではなく、流れとかも考えてアルバム用に何曲か追加で作ったりしていて。本当は“HORDE”をアルバムの1曲目に考えていたんですけど、思いのほか時間が経ってしまい…もはや次のスタイルに移行してるので、もういいかなって。
──過去の曲に執着しないというか、それが「自分の曲に飽きる」ことと表裏なんですかね。
SHV : いや、執着はありますよ。ただ、それって結局エゴじゃないですか。それよりも作品をよくすることを考えたいので、そこは客観的に見てますね。価値観は変わっていくものだし、古いものにしがみついていてもしょうがないし、だからスタイルもどんどんアップデートしていく。
BH : アルバム制作中に飽きて、また追加で曲を作りだして永遠に完成しないかも。
SHV : 「今回はここまで」というのを決めてやります(笑)。
──最初のほうで「いまのKLONNSの音楽は形容しがたい」と言いましたけど、Ngrauder(PAYBACK BOYS)さんがTwitterで「KLONNSの新曲、闇落ちしたMadballから闇落ちしたアグノ(編集部注:Agnostic Front)へ謎の先祖返りを起こした感ある。つまりかっこいい」と言っていて、面白い捉え方だなと思ったんですよ。
SHV : 凄まじい感想をいただきましたね。人生で初めて聴いたハードコアはBIOHAZARDだし、ニューヨーク・ハードコアってめちゃくちゃダンス・ミュージックだと思うんで、結果的につながったのかもしれない。あと、ヤマモト(SOILED HATE/Mortal Incarnation/Tear da Club Up)くんも「タライフ(編集部注:25 Ta Life)を感じます」と言ってくれました。
──でも、ニューヨーク・ハードコアを通っているわけではないですよね?
SHV : BREAKDOWNとか好きなバンドもありますけど、ニューヨーク・ハードコアを聴き込んでる人と比べたら全然ですね。だからニューヨーク・ハードコアを意識してるわけじゃないけれども、そういう角度から見てもらえるのはすごくうれしいです。リリースした作品は自分の手から離れたものだから自由に解釈してほしいし、いろんな解釈ができたほうが音楽として芳醇だと思ってるので。
──形容しがたいと同時に、聴く人によっていかようにも形容できるみたいな。
SHV : いまって、レヴューとかで「FFO(For Fans Of)」って書かれるじゃないですか。バンドをいくつか列挙して「こういうバンドのファンにおすすめです」みたいな。その流れに抗いたいというか、FFOという型にはめられることで、ハードコア・パンクが本来持っている実験性や自由度の高さが失われちゃうような気がしていて。
BH : SHVは映画音楽とかも好きだし、影響を受けたバンドの2つや3つじゃ語れないものが絶対にあるからね。
SHV : ハードコア・パンクってスタイルは確立されてるけど、それを1980年代に生きた人がやるのと、2020年代に生きてる自分がやる時点で全然違うし、その違いを出さなきゃ面白くない…いや「出さなきゃ」と思って変に凝りすぎると逆に楽しくない、僕らがよく言う「奇矯な音楽」になっちゃうんだけど。
BH : 奇矯な音楽ってどんなの?
ZIE : 奇を衒っていたり、めちゃめちゃ自意識が見え隠れしていたり…あと演奏者の情報量が多すぎる音楽ですかね。聴き手に想像の余地を与えない、空間がない音楽というか。日本の音楽って、ポップスとかもそうですけど、空間を埋めがちなんですよ。それはそれでドメスティックな音楽としては面白いかもしれないけど。
SHV : V系とかと一緒の、独自の音楽ですよね。僕もZIEさんもV系は大好きだけど。でも、KLONNSでそういうことはやらないし、一方でハードコア・パンクという土壌でやるうえで「HOAXでしょ?」みたいな音楽を作ってもしょうがない。
BH : KLONNSを形容する言葉で一番イヤなのは「HOAX」かもしれない(笑)。もちろんHOAX自体は大好きなんだけど、さっきも言ったように曲が全然違うし、KLONNSのほうがキャッチーだし。
SHV : 最近、暗くて怖くてネガティヴ、みたいなものに昔ほど惹かれなくなってきていて。KLONNSの音楽はダークではあるけど、ネガティヴなものにはしたくないというか。
ZIE : 昔は「ライヴでジーパン穿いちゃダメ」って言われてたんですけど、いまは穿いてます。そういうのもけっこう大きな変化ですよね。
BH : やっぱり黒で統一したいみたいなのがあったんだ?
ZIE : 最初はめっちゃそうでしたよ。僕が初めてスタジオに入ったときも「黒で来てください」って。前はスタジオでも照明を暗くしてやってましたよね。
SHV : むしろ最近、ライヴの照明も明るくしてますね。
──昔の「Discipline」でのKLONNSのステージとか、闇の中でスモークめっちゃ焚いて、ほとんど何も見えませんでしたよね。
SHV : あれはあれで隔絶された空間みたいな感じで面白かったけど、何年も続けてるとテンプレっぽくなっちゃうというか…。
ZIE : まあ実際、うちら怖くないんだけど。
SHV : 優しい4人組なんで。もともとKLONNSも「Discipline」もディストピア的なイメージがあったけど、もういまの日本がめっちゃ暗くてドロドロしたディストピアなんで、そこで「近未来ディストピアを表現してます」みたいなことを言ってもね。だから照明も明るくなったし、もっとリアルさを追求していくモードに入りましたね。
編集 : 高木理太
『CROW』の購入はこちらから
DISCOGRAPHY
LIVE SCHEDULE
MISTY #2 KLONNS 7" Crow RELEASE PARTY
2022年7月30日(土)@名古屋HUCK FINN
START 15:30
ADV/DOOR ¥2400+D
UNDER 23 ¥1000+D
KLONNS / 鏡 / 没 a.k.a NGS / MILK / WBSBFK
DJ
Wes Anderson Fanclub
Brightside Summer 2022 vol.2
2022年08月06日(土)@大阪・心斎橋HOKAGE
Open 16:30 / Start 17:00
Adv: ¥2500 Door: ¥3000(+D)
KLONNS / THE BREATH / PALM / TEMPLE / BRAVE OUT / DESERVE TO DIE
BUSHBASH 13th ANNIVERSARY “SUMMER PLACE”
2022年8月13日(土) @小岩BUSHBASH
Start18:00
ADV ¥2000 / DOOR ¥2500 (+1d order)
BUSHMIND / she luv it / Phonehead / KLONNS / THE BREATH +1
Discipline #39 -1797071 EP Release Party-
2022年8月27日(土)@小岩BUSHBASH
Start 17:00
Ticket ¥2000(+1d order)
※(U23 ¥1500+1drink order)
live:
Shine of Ugly Jewel / Hegira Moya / XIAN / 1797071 / KLONNS
dj:
lIlI / MAYUDEPTH / Golpe Mortal / TIDEPOOL / #SKI7 / 富烈
予約 https://forms.gle/mViVNAUqEYTbwJ4p6
PROFILE
KLONNS
2016年始動。「NEW WAVE OF JAPANESE HARDCORE」を標榜する東京のハードコア・パンクバンド。小岩BUSHBASHを拠点とするパーティー/コレクティブ〈Discipline〉を主宰する等、東京最深部を夜な夜な賑わせている。最新7” EP『CROW』が米・シアトルのIRON LUNG RECORDSと神奈川のBLACK HOLEのダブルネーム・リリースにて好評発売中。
【Twitter】
https://twitter.com/KLONNS_jp